「ガイアフロー静岡蒸溜所」は2016年に静岡県の「オクシズ(奥静岡の略)」で操業を開始しました。
2016年から生産を開始した日本の蒸留所には「厚岸(北海道)」「嘉之助(鹿児島)」「長濱(滋賀)」「マルス津貫(鹿児島)」などがありますが、その中でもひと際、ユニークなウイスキー造りを行っています。
「ガイアフロー静岡蒸溜所」の製法や歴史について解説していきます。
- ガイアフロー静岡蒸溜所は、静岡県にある蒸溜所。奥静岡の略称である「オクシズ」に居を構えている。
- 蒸溜所設立前からウイスキー輸入業を営み、知見を深め、満を持して2016年蒸溜所を設立。ウイスキーの製造を始めた。
- 衛生管理が難しいが、深みが出るといわれる杉製の発酵槽を用いている。素材も静岡県産の木材を使用。静岡県産原料のウイスキーを発売するなど、「静岡産」にも強いこだわりを持つ。
- 薪を原料に直火で加熱する方式の初留器を使っており、薪による直火式は世界初の試みである。
「ガイアフロー静岡蒸溜所」の歴史
「ガイアフロー静岡蒸溜所」の設立から現在までの歩みと主要ラインナップであるシングルモルトウイスキーやブレンデッドウイスキーについて紹介していきます。
「ガイアフロー静岡蒸留所」の設立
2012年からガイアフローはウイスキー輸入業を営んでいました。ウイスキー業界での知見と経験を貯めるために、蒸留所を立てる前からウイスキーに関する事業に関わっていたのですね。
そして、2015年9月に「ガイアフロー静岡蒸留所」の建設に着工し、翌年の8月に竣工となりました。冒頭に述べたように、「オクシズ」と呼ばれる奥静岡エリア、一級河川の「安倍川」の支流沿いに建てられています。
静岡蒸留所の建物は、日本の美と西洋文化の融合をテーマにしています。
静岡在住のアメリカ人建築家デレック・バストン氏の協力により、内外装に静岡の木材を用いた、唯一無二のウイスキー蒸留所が「オクシズ」の地に建設されました。
2016年9月にウイスキー製造免許を取得し、翌月の10月に蒸留を開始しました。
現在までの歩み
2016年の蒸留開始から、4年後の2020年12月にシングルモルトウイスキー「プロローグK」を初めて発売しました。ガイアフロー静岡蒸留所の序章が幕を開けます。
そして、2022年2月には初のブレンデッドウイスキー「ブレンデッドM」がリリースされました。自社蒸留のモルトウイスキーと海外製造のモルトウイスキーとグレーンウイスキーがブレンドされており、スタンダードアイテムとして年間を通して継続販売されています。
現在のオーナー
創業以来、ガイアフローディスティリングがオーナーです。
「ガイアフロー静岡蒸留所」の製法の特徴
日本で唯一の杉製発酵槽
「ガイアフロー静岡蒸留所」では、地元静岡産の杉製発酵槽(ウォッシュバック)を使用しています。
杉製の発酵槽が4基、オレゴンパイン製の発酵槽4基あり、木製の発酵槽が計8基が稼働しています。発酵槽は木製のものを使うと、衛生面での管理が大変になるのが難点ではありますが、発酵により深みが出ると言われています。そんな木製の発酵槽を8槽も使っています。
国産の杉材で桶を作る場合、吉野杉が適しているといわれます。
しかし、木材の加工に長けている静岡の特色を活かし、地元静岡産の杉を使い発酵槽を造りました。
麦芽の特徴
国産大麦麦芽やスコットランド産大麦麦芽、ビール麦芽などを中心に製造をしています。リリースする銘柄ごとに使用する大麦麦芽の種類も変えています。
静岡県の焼津産大麦での仕込みもしており、原料オール静岡のウイスキー造りも進んでいます。
ユニークな蒸留設備
「ガイアフロー静岡蒸留所」には、2種類、計3基のポットスチル(単式蒸留器)が稼働しています。1つは、2012年に閉鎖された軽井沢蒸留所から移設した初留器「K」です。
もう2つは、スコットランドのフォーサイス社が手掛けた初留器、再留器があります。このうちの初留器は、薪を原料に直火で加熱するユニークな方式で「W」という名前がついています。薪による直火式は世界初の試みです。
味わいとラインナップ
- プロローグK
- プロローグW
- コンタクトS
- ブレンデッドM
- ポットスティルK 純日本大麦 初版
- ポットスティルW 純外国産大麦 初版
シングルモルト静岡 プロローグK
「ガイアフロー静岡蒸留所」から発売された初のシングルモルトです。2020年12月に日本市場で5000本限定でリリースされました。
プロローグKは、軽井沢蒸留所から移設された初留器「K」で初留を行った原酒のみで構成された、「シングル・ウォッシュスティル・ウイスキー」です。オレゴンパイン製の発酵槽で発酵工程を経ています。これは軽井沢蒸留所の発酵槽がオレゴンパイン製だったといわれているためです。
日本産大麦麦芽を50%以上使用し、その他に英国産大麦麦芽などを原料にしています。熟成にはファーストフィルのバーボンバレルのみが用いられています。
ウッディな味わいに軽やかなピート香が漂う、繊細でデリケートな味わいに仕上がっています。
シングルモルト静岡 プロローグW
第2弾となる「ガイアフロー静岡蒸留所」のシングルモルトです。2021年6月に日本市場で5000本限定でリリースされました。
薪による直火加熱を行う初留器「W」によって蒸留された原酒のみを使用しています。
原料には日本産大麦麦芽を主体にスコットランド産ピーテッド麦芽やビール用麦芽を用いています。発酵には杉製の発酵槽を使用しています。熟成にはバーボンバレルを中心にアメリカンホワイトオークの新樽やバーボンのクォーターカスクなども使っています。
3年熟成の若々しさに大麦の優しい香りが広がり、しっかりとしたボディとピート由来の軽やかなスモークを感じられます。
薪直火により蒸留温度は800度という高温になります。これがウイスキーに豊かなボディをもたらし、「W」の個性となっています。
シングルモルト静岡 コンタクトS
「ガイアフロー静岡蒸留所」第3弾のシングルモルトです。2021年11月に日本市場で5000本限定でリリースされました。
静岡蒸留所がもつ、2種類の初留器「K」と「W」によって生まれた原酒の個性が初めてであったボトルがこのコンタクトSです。
蒸気加熱による「K」がフルーティーで軽やかな味わいを生み、薪直火加熱の「W」が厚みのあるボディと長いフィニッシュをもたらします。
原材料には日本国産大麦麦芽をメインに、スコットランド産のピーテッド麦芽とノンピート麦芽やビール用麦芽を使用しています。熟成にはファーストフィルのバーボンバレルやクォーターカスクなどを用いています。
静岡蒸留所の2種の木製発酵槽、2種の蒸留器など製法の総力が集結したシングルモルトウイスキーです。
ガイアフローウイスキー ブレンデッドM
静岡蒸留所の名を冠した3種のシングルモルトウイスキーをリリースした後、ブレンデッドウイスキーの商品化に取り掛かりました。2022年2月に発売が開始され継続的に製造、販売が行われています。
自社蒸留の原酒の生産量は限られているため、操業当初に外国産のモルトウイスキー、グレーンウイスキーを輸入して蒸留所の敷地で熟成を行い、ブレンデッドウイスキーの構想を実現しました。
商品名の「M」は、静岡蒸留所のモルト原酒が外国産のウイスキーと出会い、結びつく「MEET」の頭文字からとって名づけられました。静岡らしい味わいを目指し、原酒をブレンドしています。
ポットスティルK 純日本大麦
「ガイアフロー静岡蒸留所」のシングルモルト第4弾。初リリースとなった「プロローグK」の流れをくむ「K」シリーズの2作目です。2022年6月に日本国内で2500本限定でリリースされました。
初留には蒸留器「K」のみを使用し、さらに原料の大麦麦芽は日本産100%というこだわりです。この製品は、シングルモルトウイスキーという側面をもちますが、単一の初留蒸留器のみで構成される「シングル・ウォッシュスチル・ウイスキー」という表現をしています。
商品名は「プロローグK」の後継であり、単一の初留器でのみ蒸留されていることを表す「ポットスティルK」。日本産大麦のみを原料とする「純日本大麦」とファーストエディションである「初版」を名づけました。
現在は2023年度版が発売されています。
ポットスティルW 純外国産大麦 初版
「ガイアフロー静岡蒸留所」のシングルモルト第5弾。「プロローグW」の後継となる、薪直火蒸留器「W」で蒸留された原酒のみで構成された「W」シリーズの2作目です。2022年8月に日本市場で5000本限定でリリースされました。
「ポットスティルK 純日本大麦 初版」と真逆となる、輸入大麦麦芽のみを原料としています。英国産ピーテッド麦芽70%、英国産ノンピート麦芽20%、ドイツ産ビール用麦芽10%の約30ppmほどのピーテッドタイプに仕上がっています。
約800度にも及ぶ蒸留工程によりパワフルな味わいになっています。
継続して製造され、現在は2024年度版も販売されています。
静岡プライベートカスクディスティラリー・リザーブ
「地元静岡で収穫した大麦100%のウイスキーづくりをしたい」という願いのもと作られたのが、静岡プライベートカスクディスティラリー・リザーブです。
もともと大麦の原産地ごとに仕込みを行っていた静岡蒸溜所が、静岡県産大麦を100%使って作ったウイスキーです。
これまで大麦の生産が行われていなかった静岡において、大麦の生産から始められ、多くの人の想いがこもった一品といえるでしょう。
数量限定販売かつ、基本的にはカスクオーナー向けの抽選販売となっています。
まとめ
「ガイアフロー静岡蒸留所」について紹介いたしました。
世界でも珍しい杉製の発酵槽、薪による直火加熱の蒸留器、軽井沢蒸留所の蒸留器などユニークな製造、新しいチャレンジにも果敢に挑んでいます。今後の新製品にも注目が集まることは間違いないでしょう。
新興蒸留所の中でも、異彩を放つ「ガイアフロー静岡蒸留所」。この機会にBarなどで静岡ウイスキーを見かけた際には、ぜひお試しください。
他にも日本のウイスキーについてまとめているので、是非読んでみてください!