アードモアは、スコットランド(東ハイランド)で作られるシングルモルトウイスキーです。(ちょうどスペイサイドとハイランドの中間なので、スペイサイドに分類されているケースもあります。)
スコットランド・東ハイランド地方で、1897年に設立されたアードモア蒸溜所は、ブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の原酒を確保するために造られました。
本記事では、「アードモア蒸溜所」がどのようにして「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の原酒を確保し、世界中に広がっていったのかを詳しく紹介します。 また、蒸溜所の100年以上の歴史を通して、「ティーチャーズ ハイランドクリーム」がどのように成長してきたのかも見ていきます。
- アードモア蒸溜所はスコットランド・東ハイランド地方にある蒸溜所で、高い品質のティーチャーズ ハイランドクリームを安定供給するために必要となる原酒を確保するために造られたのがはじまり。
- 2016年にサントリーがビーム社を買収するまではそれほど積極的ではなかったシングルモルトの販売も促進され、日本にも多く入ってくるようになった。
- 原料となる大麦は地元産にこだわり、スモーキーな味わいが特徴。銘柄によってさまざまな樽を使い分けることでバラエティ豊かな味わいがそろっている。
アードモアの歴史
ブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の原酒を確保するために造られたアードモア蒸溜所。ここでは、100年以上の歴史の中で、アードモアが大規模にグローバル展開されるようになるまでの歴史を紹介します。
ちなみにティーチャーズについて知りたい人は以下の記事も読んでみてくださいね。
ティーチャーズ ハイランドクリーム」の誕生
爽やかなスモーキーさとコクが特徴の「ティーチャーズ ハイランドクリーム」は、1863年にスコットランド・東ハイランド地方でウィリアム・ティーチャーが完成させた銘酒です。
1830年頃からウィリアム・ティーチャーは、酒税法の改正などから高品質なウイスキーを造ることが今後のビジネスチャンスと考え、ブレンデッドウイスキーの製造を始めました。
ワンショットバーをオープンするなどして上質なウイスキーを楽しむスタイルを広げながら独自にブレンデッドウイスキーの研究を続けていきました。試作を重ねる中で「完璧」と思えるブレンデッドウイスキーが誕生。
これが「ティーチャーズ ハイランドクリーム」です。
父から受け継いだ味を守るために
「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の誕生からわずか10数年後、ウィリアム・ティーチャーはこの世を去りました。
そして、この「ティーチャーズ ハイランドクリーム」を継いだのが息子のウィリアムJrとその弟のアダム。
兄弟で会社を立ち上げ、「ティーチャーズ ハイランドクリーム」を世界中に輸出する事業を開始し、会社はどんどん成長していきました。
出荷量も増える中、弟のアダム・ティーチャーは「ティーチャーズ ハイランドクリームの高い品質を保ちながら安定供給するためには原酒の確保が必要だ」と考えるようになりました。
こうしてティーチャーズの原酒確保のために誕生したのが「アードモア蒸溜所」です。
「アードモア蒸溜所」の設立
アダム・ティーチャーは1897年にアードモア蒸溜所の建設を開始しました。
場所はスコットランドのアバディーンシャー州ケネスモント近郊のノーザン鉄道の沿にあるボギー川のほとり、大麦の産地として知られています。
この地を選んだのは、良質な水やピートの原料がとれるといったことだけでなく、鉄道が走っているので輸送に便利という理由もあったとのこと。
そして、アードモア蒸溜所は1899年に完成しました。
さらなるグローバル展開へ
ウィリアム・ティーチャーの想いを継ぎ高品質なウイスキーを造り続けていたアードモア蒸溜所ですが、2005年にアメリカのビーム・グローバル社に買収されました。
ビーム社は世界で最も売れている売れているバーボンウイスキー「ジムビーム」を造っている会社。アードモアと一緒にラフロイグも買収されたので、販路はさらに広がり年間500リットル以上を造るスコットランド内でも大規模な醸造所となりました。
基本的には、ティーチャーズ用のスピリットを提供していたアードモア蒸留所ですが、2016年に転機が訪れます。当時のオーナーであったビーム社をサントリーホールディングス株式会社が買収したのです。これにより、今まで積極的に発売されていなかったオフィシャルボトルのシングルモルトが安定的に販売されることになります。
これを機に、世界中で展開するのはもちろん、日本国内で幅広く展開。
運営する会社は変わってしまいましたが、アードモア蒸溜所で造られた原酒はティーチャーズのキーモルトとして今でも使われていて、その味はしっかり守られています。
アードモアの製法の特徴
父親の熱い想いを息子が継いで、今では世界中で愛されるようになったアードモア。
ここからは、「上質なブレンデッドウイスキーを造りたい」という想いが反映されたアードモアの製法の特徴を紹介します。
地元産にこだわった原料
アードモアの原料となる大麦は地元産にこだわり、一貫して地元アバディーンシャー産を使用し続けていることが特徴です。
1975年まではアードモア蒸溜所内で麦芽から製造していましたが、現在はモルトスター(麦芽製造会社)からアバディーンシャー産のものを購入しています。
ピーテッドとノンピーテッド、両方の麦芽を使用していますが、ピーテッド麦芽で使用するピートも地元産。
アードモア蒸留所から60km程度の場所にあるセントファーガスで切り出したピートを使用しているのですが、このピートはミズゴケを含まないので潮の香りがなく、炭の香りがしっかりと感じられることが特徴です。
また、ウイスキー造りにとって大切な仕込み水はアードモア蒸留所の北に位置するノッカンディの丘の湧き水を使用しています。
8基のポッドスチル
アードモア蒸留所ができた当初、ポッドスチルは2基しかありませんでした。
その後、1955年に2基追加、1974年に4基追加され、今では合計8基のスチルが稼働しています。
ポッドスチルは8基すべてオニオン型で初溜4基、再溜4基という内訳です。
オニオン型はやや重めな酒質に仕上がりやすくなるという特性。
初溜で25~26%、再溜で68%のアルコール度数の「ニューメイク」(熟成前のウイスキー)が完成します。
銘柄によって樽を使い分ける
ポッドスチルで蒸留されたウイスキーはファーストフィルのバーボン樽が使われることが一般的ですが、「クォーターカスク」と呼ばれる昔ながらの小樽を使用していることが特徴。(クォーターは1/4という意味で、バレルの1/4の容量しか入りません)
「クォーターカスク」を使用すると原酒と樽が接する表面積が大きくなるので熟成が進みやすいというメリットがあり、アードモアでは重宝されているそうです。
また、ポートワイン用のポートカスクやシェリー樽が熟成に使われることも。
このように、銘柄によってさまざまな樽を使い分けることでバラエティ豊かな味わいがそろっていることもアードモアの特徴です。
味わいとラインナップ
アードモアは、スコットランドのハイランド地方で造られるシングルモルトウイスキー「ハイランドモルト」のひとつ。
ハイランド地方は広いのでエリアによって味わいが異なり、バラエティに富んだアイテムがそろっていますが、アードモアはスモーキーな風味が特徴です。
それでは各ラインナップごとに細かくその特徴を見ていきます。
- アードモア レガシー
- アードモア トラディショナル ピーテッド
- アードモア 12年ポートウッドフィニッシュ
- アードモア 25年
- アードモア 30年
- トラディショナルカスク
- トリプルウッド
- アードモア10年 2009 シングル マインデッド
- アードモア20年
アードモア レガシー
アードモア レガシーは2016年にリリースされました。
ISCインターナショナル・スピリッツ・チャレンジで金賞を受賞、リーズナブルな価格なのでシングルモルトの入門編としてもおすすめ。
フェノール値は12~14ppmで、比較的軽いスモーク感で、重くなくスパイシーな切れ味があります。
クリーミーなバニラやシナモン、ハチミツの香りが特徴です。
どんな飲み方でもできますが、ハイボールにするとピート香が際立ちます。
アードモア トラディショナル ピーテッド
アメリカンホワイトオーク樽で熟成し、最終的な仕上げをクオーターカスクで行っています。
ピートがきいていて、フルーティーでキャッチーな味わいが特徴。
比較的ヘビーな香りなので、週末の夜などに灯りを落としてゆったり楽しむのに向いていそうです。
アードモア 12年ポートウッドフィニッシュ
バーボンカスクで熟成した後、ハーフポートパイプ(ポートワインの熟成用の樽)で追熟しています。
アードモアらしいスモーキーで力強い味わいに、ポートワインのフルーティーな風味が加わったユニークなアイテムです。
いちごジャム、ハチミツ、オレンジ、シナモン、レーズン、ウエハースなどの香りが特徴。
いつもと違うウイスキーを楽しみたい方におすすめです。フルーティーな香りがポイントなので女性にも楽しんでいただきやすいです。
アードモア 25年
ピーテッド麦芽を100%使用していて、25年間という長期に渡って熟成されています。
長期熟成することでピートの荒々しさは抑えらえ、濃厚な甘さとまろやかな香りに。
アルコール度数が52度と高めなので、ストレート以外の飲み方がおすすめです。
ロックでじっくり楽しむのはもちろん、ハイボールにしてもスモークの香りが引き立つので堪能できます。
アードモア 30年
リフィル樽で熟成した後、1stフィルのバーボン樽でフィニッシュしたボトル。
30年間熟成させることにより、フルーティーで複雑な風味に仕上がっています。
パイナップルやバニラ、スパイスの香りなどトロピカルな印象ですが、アードモアらしいピート感も。
30,000円ほどの価格がついていますが、高価格だからこそバーでプロの技で楽しみたいものです。
ゆっくり自分と向き合う時間にいかがでしょうか。
アードモアトラディショナルカスク
ハイランド唯一のピートモルトを100%使用したシングルモルトウイスキー。
アメリカンホワイトオークで熟成させた後、クォーターカスクで仕上げの熟成をしています。
ピートが効いていて、フルーティーな味わいが特徴。
クォーターカスクでの熟成ならではのクリーミーな香りを楽しめることもポイントです。
少量加水すると、全体のバランスが良くなるのでおすすめ。
アードモアトリプルウッド
もともとは機内販売や免税店などのトラベル向けとしてリリースされたアイテム。
アメリカンオークバレルとクォーターカスク、パンチョン樽で熟成させています。
ビスケットやバナナ、ハチミツ、バニラのような香りで、キャラメルのような味わいが特徴。
ハイボールで飲むのがおすすめです。
アードモア10年 2009 シングル マインデッド
モルトのクオリティをしっかり管理したスモールバッチをリーズナブルな価格で提供する、というコンセプトのもと開発されました。
ハチミツやトースト、かすかに生姜のような香りで、バニラや塩キャラメルのような味わい。
ピートスモークの余韻もしっかりあるのが特徴です。
数量限定で発売されていたので、レア感があるのもポイント。
飲みやすいので、ウイスキー初心者の方にもおすすめです。
アードモア20年
「アードモア20年」は蒸留された年によってボトルの名前が異なることが特徴です。
例えば「アードモア1996(20年)」「アードモア1998(20年)」「アードモア1999(20年)」などの種類があります。
バーボン樽で熟成されていて、蒸留年によって味わいが違うのがおもしろいポイントです。
まとめ
アードモア蒸溜所は、ブレンデッドウイスキー「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の原酒を確保するために設立されました。
1831年から、「ティーチャーズ ハイランドクリーム」の製造に携わってきたウィリアム・ティーチャーの子孫たちによって、父から受け継いだ味を守りながら世界中に輸出する事業を行っています。
一度試してみて、伝統ある歴史と魅力的な味を体感してみましょう。
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